重力の光
作品解説
北九州にあるキリスト教会では、困窮者支援をしている牧師の元に様々なバックグラウンドの人々が集まっている。本作では、元ホームレスの人たちや、極道だった人、虐待を受けていた人、生きる意味に悩む人、NPOで働く人、教会で働く夫婦などを含む9人の教会に集う、実際の人々を記録した。
傷ついた愛すべき罪人である9人が演じる、イエス・キリストの十字架と復活を描いた受難劇と、その練習風景や日常、インタビューなどを交差させた『重力の光』この作品は、シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』から影響を受けた、苦しみと許しを追求した挑戦的なドキュメンタリー映画である。
作家ステートメント
いきなり北九州に住むと決めたとき、アタシは途方に暮れていた。こんな混沌とした状況の中で自分の人生をどう進めたらよいかわからなくなっていた し、とにかく疲れ果てていた。数年前に友人に連れられて教会に寝泊りしていた生活の記憶だけを頼りに、地元でもない土地にまた戻ってきたのは、 もうなんていうか、祈りでもしないと生きてることに耐えきれなくなっていたからだと思う。
北九州に連れてきてくれた友人の親は牧師と生活困窮者支援をやっていて、アタシも徐々に教会に通うようになった。まだあまり知り合いのいない土地 で、教会の人たちと過ごしているうちに、ここにいるみんなと一緒に作品を作りたいと思うようになった。この教会に集う、傷ついた愛すべき罪人たちの人生を記録することが、自分にとってすごく重要なことに思えたから。
『重力の光』は、様々な背景を持ち、教会に集う老若男女たちと作り上げたイエス・キリストの十字架と復活を描いた受難劇、そしてそれぞれの インタビューで構成された映画インスタレーションである。生きているだけで、重力に引っ張られて下へ沈んでしまいそうな気持ちになるけれど、 祈ることで一瞬だけ重力から解放されてふわりと浮かぶことができる、その瞬間を祝福するように本作を制作した。